F1のダウンフォースとは?仕組みを物理学からわかりやすく解説

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F1のダウンフォースとは?仕組みを物理学からわかりやすく解説

F1を見ていると、必ずと言っていいほど耳にする「ダウンフォース」という言葉。

私が初めてこの言葉を聞いたときは、文字通り「物体を地面へ押し付ける力のことだろう」と考えました。

実際に調べてみると、そのイメージは大きく間違っていませんでした。

しかし、さらに調べていくうちに、ダウンフォースは単に「空気で車を下に押す」というだけのものではないことが分かりました。

ウイング、フロア、ディフューザー、車体周辺の空気の流れなどを利用して、マシンの上下に圧力差を生み出したり、空気の流れる方向を変えたりすることで、タイヤをより強く路面へ押し付ける。

そして、その結果としてタイヤが発揮できるグリップを増大させる。

これがF1の驚異的なコーナリング性能を支える重要な要素の一つです。

さらに私が驚いたのが、

「十分なダウンフォースがあれば、理論上はF1マシンが天井を走ることも可能なのではないか」

という話でした。

本当にそんなことが可能なのでしょうか?

今回は「ダウンフォース」という力を、できるだけ直感から出発して物理学的に考えてみます。


そもそもダウンフォースとは何か

ダウンフォース(downforce)を非常に単純化すると、

走行中の空気との相互作用によって、車体を路面方向へ押し付ける空気力

です。

普通の車にも空気力は働きますが、F1マシンでは車体そのものが巨大な空力装置として設計されています。

フロントウイング、フロア、ディフューザー、リアウイングなどを使って空気の流れをコントロールし、マシンに下向きの力を発生させます。

ここで重要なのは、ダウンフォースによってマシン自体の質量が増えるわけではないことです。

例えば800 kgのマシンがダウンフォースを受けても、質量そのものが1000 kgになるわけではありません。

しかしタイヤが路面から受ける垂直方向の力は大きくできます。

これがダウンフォース最大のメリットです。


なぜタイヤを強く押し付けると速く曲がれるのか

車がコーナーを曲がるためには、進行方向を変えるための横向きの力が必要です。

単純な円運動として考えると、必要な向心力はF=mv2rF=\frac{mv^2}{r}

で表されます。

mm は車の質量、vv は速度、rr はコーナーの半径です。

ここで非常に重要なのが v2v^2 です。

速度が2倍になれば、同じ半径のコーナーを曲がるために必要な力は4倍になります。

では、その横向きの力をどこから得るのでしょうか。

主役になるのがタイヤです。

高校物理的な単純モデルなら、タイヤが発揮できる力をFtireμNF_{\mathrm{tire}}\approx \mu N

と考えることができます。

NN はタイヤにかかる垂直荷重です。

つまり、タイヤを路面へ強く押し付ければ、タイヤが発揮できる力も大きくできる、というのが基本的な考え方です。

※実際のレーシングタイヤは単純なクーロン摩擦 F=μNF=\mu N だけでは説明できず、荷重感度、温度、スリップアングル、ゴムの変形なども関係します。この点は別の記事で詳しく扱います。


重くすれば同じことができるのでは?

ここで私は一つ疑問を持ちました。

「タイヤを強く地面に押し付けたいだけなら、車を重くすればいいのでは?」

しかし、それではF1マシンにとって大きな問題が生じます。

質量を増やせば垂直荷重は増えますが、同時に加速・減速・旋回させなければならない質量まで増えてしまいます。

一方、ダウンフォースなら、マシンの質量をほとんど増やすことなく、走行中の空気を利用してタイヤへの荷重を増やせます。

私はここがダウンフォースの最も面白いところの一つだと思います。

「重くすることなく、走っているときだけマシンを路面へ強く押し付ける」

という、一見すると不思議なことを空気によって実現しているわけです。


ダウンフォースはどこから生まれるのか

では、空気からどうやって下向きの力を取り出すのでしょうか。

大きく見ると、F1では

空気の流れる方向を変えることと、車体周辺に圧力差を作ること

が重要になります。

ウイングの周囲を流れる空気は、ウイングの形状や迎角などによって流れ方が変化します。

空気の運動量を変化させれば、ニュートンの運動法則によってウイング側にも反作用が生じます。また、ウイング表面の圧力分布によって、結果として車体には下向きの空気力が作用します。

さらに現代F1で極めて重要なのがフロアです。

マシン下面の空気を適切に加速させ、フロア下面の静圧を周囲より低くすることで、車体上下面の圧力差を利用してマシンを路面方向へ引き付けます。

つまり、

「上から空気で押している」

だけではありません。

車体周囲の圧力分布全体を設計して、結果として下向きの力を作っている

と考えた方が実際のF1に近いのです。


なぜ高速になるほどダウンフォースが大きくなるのか

空力によって発生するダウンフォースは、単純化すると次の式で表せます。FD=12ρv2ACLF_D=\frac12 \rho v^2 A C_L

ここで、

  • ρ\rho:空気密度
  • vv:マシンと空気の相対速度
  • AA:基準面積
  • CLC_L:揚力係数(ダウンフォース方向をどう符号化するかは定義による)

です。

ここでも速度が v2v^2 で効いてきます。

条件が同じなら、速度が2倍になると空気力は理想化したモデルでは約4倍になります。

だから低速コーナーと高速コーナーでは、F1マシンに働いている空力の影響がまったく違います。

私はこれを知ってから、F1を見るときの「速い」という言葉の意味が少し変わりました。

単にエンジンやパワーユニットによって速く走っているだけではなく、

速く走る → 空気力が増える → より大きなタイヤ荷重を得られる → より高速で旋回できる

という関係が存在するからです。

もちろん、速度が上がれば必要な向心力も v2v^2 で増えますし、ドラッグも増加します。そのため「速ければ速いほど無限に曲がりやすくなる」という意味ではありません。

それでも、F1において速度そのものが空力性能を引き出す重要な条件になるという点は、とても興味深いと思います。


F1マシンは本当に天井を走れるのか?

そして、私がダウンフォースについて調べていて最も驚いたのがこの話です。

「F1マシンは理論上、天井を逆さまに走れる」

というものです。

考え方自体は意外とシンプルです。

普通に地面を走っているとき、重力はマシンを地面方向へ引っ張っています。

ところが天井を逆さまに走ると、重力はマシンを天井から引き離す方向に作用します。

したがって、逆さまの状態でも空力によって天井方向へ働く力が重力を上回り、さらにタイヤが必要なグリップを維持できるなら、Fdownforce>mgF_{\mathrm{downforce}}>mg

という条件のもとで、少なくとも力のつり合いという理想化された物理モデルでは天井に留まれる可能性があります。

初めてこの話を知ったとき、私はかなり驚きました。

「空気で車を地面に押し付ける」という程度に考えていた力が、突き詰めると重力に逆らって車を支えられるほどの空気力になり得るからです。

ただし、

「理論上、空力的に可能」=「実際のF1マシンをそのまま逆さまにして走らせられる」

ではありません。

エンジンや各種流体系の潤滑、燃料・オイルの供給、タイヤ、路面、車高制御、空力姿勢、天井へ移行する方法など、実車では別の問題が大量にあります。

だから「F1は天井を走れる」という有名な表現は、ダウンフォースの大きさを直感的に理解するための思考実験として捉えるのが適切でしょう。


ダウンフォースを知るとF1の見え方が変わる

私がダウンフォースを調べて面白いと感じたのは、「F1は単に強力なエンジンを積んだ速い車ではない」ということでした。

空気という目には見えないものを利用してタイヤへの荷重を増やし、その結果として普通の車では考えられない速度でコーナーを通過する。

そして、その力は速度によって大きく変化する。

そう考えると、F1マシンのウイングやフロアの複雑な形にも、一つひとつ物理的な理由があることが見えてきます。

これからF1を見るときは、ぜひ高速コーナーでマシンを見てみてください。

「今、このマシンの周囲の空気はどう流れ、どこに圧力差が生まれ、タイヤにはどれほどの荷重がかかっているのだろう?」

そう考えるだけでも、F1の見え方はかなり変わると思います。

LAPVEXAでは今後、フロア、ディフューザー、グラウンドエフェクト、ウイング、ドラッグ、タイヤの摩擦、そして実際のF1マシンの空力設計へと、一つずつ掘り下げていきます。

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